VOL.4 ソーシャルワーカーのチカラ

~一つ一つのケースを帰納的に考え、支援の質をあげる~

教えてくれた人

金子 充(かねこ みつる) ソーシャルワーカー(在宅療養支援診療所(内科・精神科)勤務)

<プロフィール>

精神障害者授産施設※での勤務、精神障害者グループホームでの勤務、保健所で精神保健相談員を経て、現職。精神保健福祉士・社会福祉士

※授産施設:社会福祉施設の一種。心身上の理由や世帯の事情により就業が難しい人に、就労や技能修得のための機会を与え、自立を助長することを目的とした施設のことを言う。

<ソーシャルワーカーとして大切な能力は何ですか?>

1 クライエントが自分から何かをしようとする自発性のようなものを発揮できるようにしていく力  受容力 多様性理解力

もちろん私たちは、クライエントが感じているニーズとこちらが見立てているニーズを摺合せしていくことが大事なのですが、精神障害者の人だと自分の状況をうまく説明できなかったり、嫌だと言えなかったりするので、こちらの思っていることを押し付けず、こちらの提案は伝えながらも、患者さんが判断する言葉を待ったり、患者さんの価値観やモノの見方を肯定して受け止めていくことが大切だと思っています。そのような態度が患者さんに伝わると、それが患者さんの自発性につながっていくように感じています。

2 個別のケースから普遍的な問題を取り出していく、帰納的・一般的に考える思考力

帰納的思考力

ソーシャルワーカーとして、世の中に社会問題の存在を提言していくためだけでなく、日々の現場実践の中でも、そういう力があると、このケースは、今こういう状況だから、この後は多分こうなるだろうと予測ができるようになります。それができると、事前に落とし穴を見つけて、落とし穴にはまらないような対策が打てます。例えば、この人は薬を飲まなくなりそうだから、薬の管理は支援者がメインでやった方がいいな、とか、この人はこのままいくと近所の人とトラブルになりそうだから、もう少し福祉サービスを増やしたほうがいいな、とか。そういった見立てですね。これができると、クライエントの信頼を得られやすいですし、失敗も少なくなります。たくさんの人の対応をするためには、そういった力がないと仕事がまわらないですね。日ごろからカルテを書くだけでなく、思いついたときに、個別ケースの中から一般化できることをパソコンで書いてまとめるようにしていますが、今、それがとても役に立っていると思います。

3 自分をコントロールする力 感情制御力

自分の感情をうまく調整する力は大事ですね。患者さんと接する中でイライラすることはあまりないのですが、日常のその他の業務や、日常生活の中で起きたイライラの感情をコントロールしていくことが大事です。感情をコントロールできるかは、支援の質に大きく影響していくと思います。

<なぜソーシャルワーカーになろうと思ったのですか?>

もともと大学でも心理学系の学問を専攻していたのですが、大学卒業後、体の病気をして、20代は手術と療養を繰り返し、その時の体験を活かしたいと思い、一年間専門学校に行き、精神保健福祉士の資格を取りました。

精神保健福祉士も社会福祉士も、欧米ではソーシャルワーカーと言われる仕事です。資格を取った時には、31歳ぐらいになっていて、20代の職歴がなかったもので、就職活動では正直苦労しました。最初の勤務先は精神障害者授産施設でしたが、最初の半年は週一ぐらいのボランティアからスタートし、その後、正式に採用してもらい、ようやく社会人としての生活をスタートさせることができました。相談を受けたり、制度を紹介したり、「クライエントのニーズを基に、医療・福祉サービスの調整をする」専門家として働き始めました。

ソーシャルワーカーを仕事にしている人の中には、自分のように自らの体験がきっかけになって働いている人も多いですね。今の世の中では、病気とかブランクってネガティブな体験にとらえられますよね。でも、そういったネガティブな体験をすると、それをポジティブに考え、自分の人生を肯定的に生きていくために、その経験を活かせる仕事がしたいと思うのではないでしょうか。私も20代は、他の人と全く違い、レールの無いところをずっと走っている感覚でした。治療と学びの20代を経て、その20代を活かせるソーシャルワーカーという仕事に巡り合いました。

<現職のクリニックでのソーシャルワーカーの仕事はどんな仕事でしょうか?>

現在の在宅療養支援診療所は、精神科の訪問診療、精神科訪問看護という、まだまだ日本では数が少ない医療サービスを提供している診療所です。その中で2つの仕事に従事してきました。

現在は、訪問診療・訪問看護の新規患者さんの受け入れの仕事をしています。訪問診療の依頼があった際に、最初にインテーク面接(初回のヒアリングをする面接)をして、その前後に様々な調整をします。

インテーク面接は、患者さんのご自宅に伺い、既往歴や生活状況を聞きます。同時に、訪問診療のニーズや初診の日程を自分のクリニックの医師、他の職員、家族、ケアマネージャーと摺合せ、医師に診療に行ってもらう段取りをつけます。診療をスタートするためのコーディネイト業務ですね。またその際に、制度の紹介などもしていきます。例えば、「自立支援医療制度」という、精神科の通院などの自己負担金が原則1割負担になる制度の紹介などはよくしています。自分の専門知識を活かして、患者さんが少しでもよい治療環境を手に入れられるように支援していきます。

その前は、精神科訪問看護をしていました。2週間に1度の医師による訪問診療だけだと、自宅での生活に支障が出てくる方がいらっしゃいます。例えば、薬を飲まない人、薬を飲んでも意欲が低下していたり、頭がボーっとしてしまう人、外出が不安な人、色々いらっしゃいます。そういった方々のご自宅に、私達が1週間に1度訪問することで、生活をサポートしていくのです。

例えば、薬を飲めない方であれば、一緒に薬カレンダ-のポケットに薬を入れてセットし、飲めていない理由をヒアリングしていきます。薬が飲めない理由を本人が自覚していないことも多々あるので、どうして薬が飲めないのかを見立て、どうすれば飲めるようになるのか患者さんと一緒に考え、根気強く働きかけます。1回の訪問看護は30分ぐらいなのですが、その他にも障害を持った1人暮らしの人だと、食事の栄養バランスが悪かったりするので、一緒にスーパーに行って野菜を買ってきたり、時間がある時は、一緒に料理をしたりする時もあります。

そういったサポートだけでなく、院外の生活保護ケースワーカーや保健師とも連携し、見立てを共有し、必要な対策を考え、提案していきます。新しい福祉サービスを入れたほうがいいのであれば、患者さん本人や主治医に提案していきます。1人の患者さんに対して、医師と精神保健福祉士だけが関わる場合もありますが、患者さんによっては生活保護ケースワーカー、保健師、相談支援専門員※、就労継続支援事業所職員、ヘルパー、看護師、作業療法士等、10人近くの人が関わっていて、その調整役をソーシャルワーカーは担っていきます。相談支援専門員が立てた長期的な支援プランの運用がうまくいっているか、連携ができているかを見立て、ソーシャルワーカーはその間に入って、調整していきます。患者さんのニーズや、メンバーの組まれ方で、サービスの幅はずいぶんと変わってきますね。

※介護の世界で言うケアマネジャー。障害福祉サービスを何かしらつける場合は相談支援専門員がつく。

<一日の仕事スケジュールは?>

★新規患者さんの受け入れの仕事の場合

【午前】

新規依頼の電話対応

関係機関との調整業務

患者さんのご自宅に訪問してインテーク面接(1件目)

【午後】

患者さんのご自宅に訪問してインテーク面接(2件目)

病院に戻り、インテーク面接の内容をカルテに起こす

院内や関係機関との調整業務

★精神科訪問看護の仕事の場合

【午前】

①患者さん宅訪問(服薬状況の確認)

②患者さん宅訪問(外出を手伝う)

③患者さん宅訪問(昼食の調理を手伝う)

【午後】

④患者さん宅訪問(面接だけの場合もあり)

⑤患者さん宅訪問(服薬状況の確認)

⑥患者さん宅訪問(夕食の食材の買物を手伝う)

⑦患者さん宅訪問(新しい福祉サービスの提案)

<仕事のやりがいや面白みはどんなことですか?>

精神科訪問看護は、まだ世の中でも少なく、私達がやっていることは、ソーシャルワーカーの中でも先駆け的な仕事です。また、在宅療養支援診療所で働いているソーシャルワーカーの仕事は、あまり明確になっていないと思います。そのため、これからの可能性を感じています。ニーズはたくさんあって、どういう風にすれば訪問診療や訪問看護を社会の中で役立つものにできるのか考えていけるのが自分にとってのやりがいです。引きこもりの人や認知症の人を対象にしているこの仕事に社会的な意義を感じ、それが自分自身のやりがいになっています。

インタビューしているこちらがまるでカウンセリングを受けているような心境になる穏やかな語り口調と柔らかい笑顔

<最も大変だった経験やつらかったことはどんなことですか?>

仕事自体は、失敗も含めて自分が成長していけると思っているので、しんどさはあまり感じていません。仕事内容よりも、自分にとってのネックは、給与や労働条件の問題です。医療機関の中では、ソーシャルワーカーは医師や看護師に比べて新しい職種なので、軽視されているところもあります。それゆえに給与も低く、低いからあまり人が集まってこない、人が辞めていくといった悪循環があります。人が成長する前に辞めてしまうのは悲しいことで、その悪循環を誰かが止めなくてはと思い、ここまで続けてきたというところはあります。

ソーシャルワーカーは、基本的にはどこかの医療機関に正社員として従事していて、都立・国立病院など、公務員に準じた待遇のところだと、お給料面は充実しているケースもあるのですが、そうでないと相場年収が300万円代ぐらいで、昇給幅も低かったりします。社会的に価値がある仕事だと思うのですが、社会的認知度が低い。基本的に、仕事内容が見えにくいのですよね。実践を重ねながら知識・技術を積み上げ、それを新しくソーシャルワーカーになった人に伝えていくという良循環を作らなければ、ソーシャルワーカーという職業の評価は上がりません。1人1人のソーシャルワーカーが、自分が勤めた場所で根をはって、そこで花を咲かせなければ、ソーシャルワーカーという職業は世の中に認めてもらえないのではないか…。そんな使命感のようなものがあるのでしょうね。

現職でも、最初は昇給幅が低かったのですが、離職していく多くの仲間を見送ってきたこともあり、労働条件を改善しなくてはと思い、職場全体の給与改定の時に職場に訴え、ソーシャルワーカーの給与を少し見直してもらいました。社会にとって必要な仕事なのに、認知度の低さを何とかしないと、今後やる人が減っていってしまうだろうなと思っていて、そこら辺の問題意識でSCA※の立ち上げにも関わりました。

SCA:Social Change Agency

<逆に今までの経験の中で最も嬉しかったことや印象深かった経験はありますか?>

2年間ぐらい訪問看護で関わっていた患者さんで、60代ぐらいの男性がいたのですが、1人暮らしで、若いころに統合失調症になって、ずっと薬を飲んで生活してきた方でした。その後、癌を患い、訪問看護だけでなく、訪問診療も入ることになり、そのためのインテーク面接に行く予定でした。その前に、地域の支援者の方と一緒に銭湯に行ったらしいのですが、インテーク面接に行く前に急に亡くなってしまいました。その話を聞いたときに、何がが胸につかえるような感覚が残りました。生活保護の担当者が葬儀場を手配してくれたのですが、どうしても自分の胸につかえたものが取れないため、仕事が休みの日に葬儀場に伺い、霊安所で拝顔してお花を手向け、手を合わせて帰ってきたことがありました。初めて患者さんに対して、「この人の最後を見届けなければならない。」という気持ちになった印象深い経験でした。

最期を見届けるところまで関われる方は、実際はほとんどいません。面接1回だけの関わりだったら、そういう気持ちになることはないのでしょうが、やはり訪問看護で長い関わりをさせていただいたので、色々な気持ちが芽生えたのだと思います。最後、霊安所で対面したことで、胸のつかえがすっと取れました。家族を見送る時のような、不思議な感情でした。

私は、その方と関わる中で、「精神障害者として今の社会で生きていくということがどういうことなのか」ということを学ばせていただいたのだと思います。その方が亡くなった後も、「クライエントが亡くなっても、そのクライエントは支援者の心の中で、道標として生き続ける」ということを学ばせていただきました。

私は支援者として、患者さんを助けることを仕事としているのですが、実際のところ、支援することで、患者さんから何かを学ばせてもらっている、何かをいただいている、と日々感じています。こちらが一方的に何かをしているのではないのですよね。患者さんや患者さんのご家族から、「人間が生きるということはどういうことなのか」ということを教えていただけること、家族のような深い関わりを人と持てることがこの仕事の最大の醍醐味だと思います。

特に、人の生き死にに触れることが多いので、すごく深いものを学ばせていただくようになるのかもしれませんね。

<ソーシャルワーカーの仕事の未来はどうなっていくと思いますか?>

ニーズは増えていくと思います。高齢者や認知症患者も増えていますし、社会の流れとしても所得の格差が広がっていくような社会になっていくと思うので、どうしても一般の人たちの生活というのは苦しくなっていくと思います。また、生活が便利になり、消費行動が個別化されていくので、人間関係が分断されていく、その関係をうまくつなげることもソーシャルワーカーは担っていかなくてはならないと思っています。

個別ケースに関わるだけでなく、個別ケースの背後にある社会問題を目に見えるものにして、それを社会に対して提言することや、地域コミュニティを作っていくのもソーシャルワーカーの仕事です。病院や施設などに勤めているとなかなかそこまではできませんが、地域の中間共同体を作っていくことや、自分の職場の中で、働きやすい職場を作っていくということもソーシャルワーカー的な視点です。ソーシャルワーカーがやるべきことは、これからたくさん出てくると思います。ですので、ソーシャルワーカーは、これから必要とされる職種だと思っています。今もソーシャルワーカーでなくても、NPOなどでソーシャルワーカー的な仕事をしている人もいますし、きちんと生計を立てていくことさえできれば、可能性としても大きい仕事だと思います。

<今の仕事と同じように向いていそうな仕事はありますか?>

あまり考えたことはありませんが、区役所の生活保護の担当とかはやってみてもいいかもしれませんね。大変そうな仕事ではありますが。

キャリアカウンセラー舛廣純子の  “シゴトのチカラ考察”

この仕事に向いている人は?と伺った時、「ベースの部分で人に対して優しいまなざしを持てる人、どんな人でも生きていていいんだという価値感を持てる人」とおっしゃった金子さん。根本的なところで、多様性を理解し、受容的であることが大事であり、そういった人が、「患者さんの自発性を発揮できるように働きかけられる」のだなと思いました。金子さんが関わる患者さんは、精神障害や認知症を患っていることで、スムーズな意思疎通が図れなかったり、中には1人暮らしで家の中が雑然としていて片付けられていなかったり、貧困や孤独と背中合わせの方も少なくありません。「どんな人にでも優しいまなざし」を向けることは、金子さんにとっては当たり前でも、一般的にはそう簡単なことではないのではないのでしょうか。穏やかな語り口調と優しい表情、丁寧で誠実な一言一言、金子さんのそういったコミュニケーションスタイルと態度そのものが受容的で、患者さんとのやりとりもきっとこうなのであろうと、想像されました。

たくさんのケースを扱うソーシャルワーカーだからこそ、患者さんを見立て、アセスメントできる力は大事であり、行き当たりばったりでない専門的な支援をしていくためには「帰納的思考力」は必要で、「自分をコントロールする力」ともあわせて、金子さんの専門家、プロフェッショナルとしての意識の強さを感じました。キャリアカウンセラーと必要な力の共通点も多い仕事です。


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